量子コンピューターの時代がいよいよ来た

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辻 智

辻 智

成城大学 データサイエンス教育研究センター 特任教授 博士(工学)
32年間、日本IBMの研究開発に従事し、定年後、2018年4月から成城大学。
IBM在職中は、トンネル顕微鏡を分析装置として駆使するエンジニアからスタートし、後半は技術者・研究者の育成・活性化および大学との連携強化プログラムの開発推進を担当するとともに、IBM Watson、IBM Q (量子コンピューター)を世の中に広める活動にも尽力。
IBM在職中の2015年より成城大学の理数系教育推進に協力しており、その一環でAI、Robotics、Python Programmingなどのデータサイエンスの授業を担当して5年になる。

1. 量子コンピューターが最近騒がしい

 

慶應義塾大学が理工学部の矢上キャンパス内に、最先端量子コンピューター研究拠点としてIBM Q Network Hubを開設(2018年5月17日)したのに続き、ちょうどこの原稿を書き始めた日の前日(2019年12月19日)、東京大学とIBMが量子コンピューティングの技術革新ならびに実用化に向けたパートナーシップ構築を推進するための覚書を締結したと発表がありました。

その発表によれば、IBMは所有・運用するIBM Q System Oneを日本国内のIBM拠点に設置することが予定されており、アジア太平洋地域では初めて、全世界でも米国、ドイツに続いて3番目の導入となるそうです。日本の中で量子コンピューティングに対する取り組みをぜひ盛り上げたいとかねがね思っていた私は、一安心するとともに、未だ会社員時代の感覚が抜け切らない自分としては、心躍るニュースでした。また、今年に入り東芝と東北大学東北メディカル・メガバンク機構は、「量子暗号通信」を用いて、人のゲノムデータ約500GBを約7キロ離れた施設へ伝送することに世界で初めて成功したと発表しました(2020年1月14日)。このニュースも世界初ですので、大興奮ものです。

量子コンピューティングはここ数年、急速な進歩を遂げて来ており、研究機関に止まらずIBM、Google、Microsoft、Intelなどの巨大企業も大規模な研究開発チームを編成して、この分野に巨額の投資をしてきました。これらの海外勢に目を向けても、2019年の後半は、Googleの量子コンピューターによる「量子超越性の実証」に対してIBMの専門家グループが、量子超越性を達成したというGoogleの主張に重大な欠陥があると発表(10月21日)したり、Microsoftが世界中の人々と組織に量子コンピューティングの価値を提供するフルスタックの(多様な開発ニーズに対応する)オープンなクラウド上のエコシステム(ビジネスモデルの「生態系」)Azure Quantumを発表(11月4日)したりとにわかに騒がしくなってきました。

2017年より、私はいくつかの大学の授業や会社説明会などで学生向けに量子コンピューティングを紹介してきましたので、最初にその意義・原理・応用・課題などについて概観させていただき、それに続いて量子コンピューティングの授業に対する学生の反応・反響について書かせていただきます。最近、量子コンピューティングに関する成書もたくさん出始めており、インターネット上にも多数の情報が載るようになってきましたので、2017年当時より格段に世間の人々の関心が高まってきたと感じています。また、私がIBM出身なので、IBMに偏ったお話になってしまうことはご容赦願います。

私が会社の活動として量子コンピューティングを紹介し始めた2017年当時は、「量子」と聞いただけで、「それは自分には関係ない」という拒否反応に似た素っ気ない態度の学生が多かったような気がします。それが、この2、3年で大分雰囲気が変わってきたと感じます。学生の感覚と知識との間には距離があるようで、その距離が離れていると実感も湧かないようです。それが「量子」の名がメディアやネットにも多く登場するようになって、量子コンピューターをクラウド経由で操作する体験も簡単にできるようになりましたので、学生の量子コンピューターについての知識が感覚に確実に近づいてきていると思います。

 

2. 量子コンピューティングとは何でしょうか ?

 

最初に、量子コンピューターの意義・原理・応用・課題などを概観します。

 

2.1 量子コンピューティングの必要性

 

私たちは、現行のコンピューティングの有難さやメリットを毎日体感できています。しかし、今日のシステムが解決することのできない課題もたくさんあります。ある程度の大きさと複雑さの上で問題を解決するには、私たちはこの地球上に十分な計算能力を未だに持っていません。これらの問題を解決するためには、新しい種類のコンピューティングが必要なのです。

量子コンピューターは、現行のスーパー・コンピューター(以下、スパコン)では計算に数か月から何年もかかってしまうような科学技術計算、たとえば、

・命を救うための創薬探索

・病気を早期に診断できる機械学習法

・効率的な半導体デバイスとその構造を形成するための材料探索

・老後により良く暮らせるためのファイナンシャル戦略

・救急車のような(有限で競合する)社会的リソースを迅速に誘導するためのアルゴリズム

などの多岐に渡る分野で、驚異的に短時間で計算が済むように、新たなブレークスルーを生み出すことが期待されています。また、現行のスパコンを動かすためには、たとえば小さな都市ひとつ分くらいの大容量の電力が必要ですが、量子コンピューターは省エネです。スパコンで計算能力を上げようとすると、さらに電力が必要ですが、量子コンピューターにはその心配がありません。量子コンピューターでは、計算処理そのものの消費電力はほぼゼロが期待できます。今、ホットな話題となっている地球温暖化防止のためにも、量子コンピューターが背負っている将来は大きいと思います。

次に、量子コンピューターの基礎をさっと概観します。

 

2.2 量子コンピューティングの基礎

 

すべてのコンピューティング・システムは、情報を保管および操作する基本的な能力に依存しています。 現行のコンピューターは、情報を2進数の 0 または 1 の状態として保管する個々のビットを操作します。

一方、量子コンピューターは、量子力学的現象を利用して情報を操作します。これを行うことは、量子ビットに依存しています(量子ビットをqubitと呼びます。”Q”あるいは”qu”は量子=quantumを意味します。)汎用量子コンピューターは、「重ね合わせ」(superposition)と「量子もつれ」(entanglement)と呼ばれる、非日常的で特有の量子力学的現象を活用しています。そして量子ビット数の増加に応じて、指数関数的に増大する状態を作り出すことができます。

つまり、0 と 1 の状態のみならず、0 だけでも 1 だけでもない「重ね合わせ」の状態を同時に無数に作り出して、そのすべてをいっぺんに活用することができます。それが、量子コンピューターが現行のコンピューターより一億倍以上計算が速いと言われる所以です。

計算の速さの源となっている量子特性について、少しまとめてみました。量子の世界では、粒子の大きさが十分に小さいと、粒子としての性質(物質)とともに、波としての性質(状態)も加わります。3つの量子力学的性質(重ね合わせ、量子もつれ、干渉) は、量子コンピューターにおいて量子力学の状態を操作するために使われます。

 

1. 重ね合わせ

重ね合わせとは、通常は独立して記述する状態の組み合わせを意味します。古典的なたとえでは、 2 つの異なる音符を一度に演奏すると、2つの音符の重なりが聞こえるようなものです。量子ビットの重ね合わせ状態は、ブロッホ球と言われる球上で振幅と位相によって表すことができます(図1 参照)。

図1:1量子ビットの状態の記述

 

2. 量子もつれ

量子もつれは、古典的な物理の世界では見られない反直感的な量子現象です。量子もつれ粒子は(つまり「量子もつれ」の関係にある2つの量子は)、古典物理では説明できない現象で、ふたつ一緒にシステムとして振る舞います。ひとつの量子を測定すると、もつれ関係にあるもうひとつの量子も影響されて確定します。

3. 干渉

最後に、量子状態は位相としても知られている現象のために干渉を受けます。量子干渉は、波の干渉と同様に理解することができ、2つの波の位相が同じときにはその振幅が増幅され、位相が逆のときは、その振幅が消されます。

 

2.3 量子コンピューターのハードウェア

 

量子ビットを作成するには、いくつかの異なる方法があります。 1 つの方法は、超電導を使用して量子状態を作成し、維持します。これらの超伝導量子ビットを長期間作業するためには、極低温にしておく必要があります。システム内のすべての熱でエラーを発生させてしまうため、量子コンピューターは宇宙の真空(絶対温度2.725K)よりも寒い、絶対零度(0K)に近い温度で動作させます。

量子ビットのために極低温環境を作り出す冷凍機(希釈冷凍機)は、2000 個以上の部品で作られています(図2のように巨大な美しいシャンデリアのように見えます)。

 

図2:CES2020におけるIBM Q(量子コンピュータ、2020年1月コンシューマ・エレクトロニクス展示会CES)。CES2020でIBMは量子コンピュータ(IBM Q Network)の拡張版を発表、産業界の100社以上が広く参加:航空機産業、自動車、銀行・金融、エネルギー、保険、素材産業、電子産業等(IBM社による)。(図の出典:IBM News Room: Image Gallery: IBM Research)

 

2.4 量子コンピューターの量子計算モデルの種類

 

現行のコンピューターで使われる「電子回路」や「論理ゲート」に代わり、量子計算には「量子回路」や「量子ゲート」を用いて計算を行うモデルがあります。このモデルは量子コンピューター研究の初期から用いられており、万能な量子計算を記述できる最も標準的なモデルです。一方、特定の計算を記述するための量子アニーリングというモデルもあります。

 

2.5 量子コンピューティングの課題

 

今日、現実の量子プロセッサは、世界中の研究者により様々な分野の応用のためのアルゴリズムをテストするために使われています。しかし、量子コンピューティングが純粋に理論上のみの問題であったのは、ほんの数十年前のことでした。つまり、量子コンピューティングは急速に発展してきています。

実機としての量子コンピューターは、極低温でも量子状態を計算に十分な長さの時間だけ維持することは、まだまだ難しい課題です。また、現在の量子コンピューターは、量子ビットの数もまだ少なく、不安定な量子ビットにより生じるエラーを訂正する機能も不十分です。堅固な量子システムを構築するために必要な要素は何でしょうか? それは、スケーリング量子システムを目指すことです。

量子コンピューターの計算能力を向上させるためには、2次元的な改善が必要です。1 つは量子ビット数です。量子ビット数を数多く持てば持つほど、原則として、より多くの状態が操作でき、保管できます。もう 1 つは低エラー率で、量子ビット状態を正確に操作し、ノイズではなく応答を提供する一連の操作を実行できる必要があります。

また、量子能力を理解する上で有用な評価指標は、量子ボリュームです。量子ビット、回路接続、および操作のエラー率の数と品質の関係を測定します。より大きな量子ボリュームを持つ開発システムは、量子コンピューターが実際の問題を解決するための計算上の利点を活用できます。

一方、知り合いのサイバー・セキュリティー・エンジニアに昨年(2019年)会った時に、彼は量子コンピューターが将来サイバー・セキュリティーの脅威になる可能性があると、今から量子コンピューターの開発動向や計算能力をリサーチしており、この量子コンピューターに対するトラッキング(現況の追跡調査)の活動を継続していくと危機感を露わにしていました。量子コンピューターの計算能力が上がってくると、暗号が解読され、現在広く普及している公開鍵暗号、デジタル署名などが役に立たなくなる可能性があり、耐量子コンピューター暗号が必要になってくる課題もあります。

 

3. IBM における量子コンピューティング

 

IBMがスポンサーとなっているデジタルメディアmugendai によれば、IBMは、2019年1月に開催されたCES(Consumer Electronics Show)2019において、世界初の汎用近似量子コンピューティング統合システム「IBM Q System One」を発表しました。これは、世界初の商用量子コンピューティング統合システムとなっています。「IBM Q System One」は、2016年クラウド上に無料で一般公開され、10万人を超えるユーザーが670万回以上の実験を行なってきた量子コンピューティング・システム「IBM Q Experience」と、企業や学術機関から成るプラットフォーム「IBM Q Network」によって、汎用量子コンピューティングを一般公開する業界初の取り組み「IBM Q」の進化を示すシステムです。IBM Qは、ビジネス、エンジニアリング、および科学研究のための汎用量子コンピューターを構築する、業界初のイニシアチブでした。この取り組みには、量子コンピューティング・テクノロジーの全体の積み重ねによる進歩と、量子を広く使用可能かつアクセス可能にするためのアプリケーションの活用が含まれます。

 

4. IBM Q を学生に体感してもらう

 

2016年に開始したIBM Qの取り組みを受けて、2017年より私のチームはいくつかの大学の授業や会社説明会などの機会に、量子コンピューティングをいち早く紹介してきました。特に、成城大学では、2017年のデータサイエンス概論の授業で50名くらいの学生に対して、実際に IBM Q により量子ゲートを使った実習を行いました。

Circuit Composerでは、5量子ビットが5線譜のように見えて、そこに音符を置くように量子論理ゲートをDrag&Dropでセットしていきますので、操作は至って簡単です。Composerには2種類あり、雑音のない理想的な量子プロセッサで計算させる量子シミュレーターと、実際の量子プロセッサで計算させる量子コンピューターです。

シミュレーターの場合はすぐに反応するので、授業のように短い時間で操作する場合には打ってつけです。その時は理屈よりも、まず実際にクラウド経由で操作してもらうことを優先し、量子コンピューターが身近であることを実感してもらいました。2019年12月には、今度はデータサイエンス入門ⅠとⅡのクラスの総勢62名に対して、IBM Q を活用した実習を行いました。IBM Q は2017年の時から進化し、2019年には量子ゲートを操作するCircuit Composerの機能に加えて、Python の Jupyter Notebookの機能であるQiskit Notebooksが使えるようになっており、Pythonからのアプローチも可能になっています。Pythonが使えることは、学生にとても好評でした。

図3は、2019年12月の量子コンピューターの実習の様子です。

図3:量子コンピューターの実習の様子

教室の卓上からクラウド経由でIBM Qを容易に操作できました。この実習の感想を学生に短文で提出してもらっています。そのワードクラウドを図4に示します。

図4: 学生の実習に対する感想文のワードクラウド

 

量子コンピューターやPython関係の用語が大きくなっていますが、その他にも理解、便利、計算、仕組み、使い方といった単語が大きくなっています。これらの学生の感想文全体に対して係り受け分析してみると、名詞―形容詞の関係では、ポジティブなものとして、解説―やすい、便利―楽しい、操作―面白いなどが並び、中立なものとしては、説明―興味深い、計算―速い、起動―速いなどがあり、ネガティブなものとしては、内容―難しい、行列―難しいなどがありました。

名詞―動詞の関係では、プログラム―使いこなす、知識―学ぶ、量子コンピューター―触れるなどがスコアの上位にきました。学生の感想文全体を分析し、感情の傾向を可視化したものが図5です。

 

図5:学生の実習に対する感想文の感情傾向の可視化

 

「ポジネガ」(図5左)は、文章に含まれるポジティブな感情の文とネガティブな感情の文の存在比を示しています。ポジティブ、中立、ネガティブな感情がちょうど3分の1ずつ表れています。「感情」(図5右)は、文章に含まれる各感情の度合いを数値に換算しています。喜び、好き、悲しみ、恐れ、怒りの5つの感情では、喜びが一番大きくなっています。これらの一連のデータ分析から、人文・社会科学系の学生に対しても量子コンピューターの授業は十分可能で、むしろ積極的に展開した方がよいという感触です。

ご参考までに、学生感想文の中から、ポジティブ、中立、ネガティブな感情に関係するものをいくつか抜粋でご紹介させていただきます。

【ポジティブな感情】

・量子コンピューターの体験や、そもそもの量子コンピューターとは何かを知ることができてよかった。

・量子コンピューターが直感的に操作できて面白かったです。

・量子コンピューターが誰にでも使えるツールなのは驚きだったし、今後もっといじってみたいと思った。

・量子コンピューターの仕組みが分かってよかった。速くて驚いた。

・量子コンピューターの説明が興味深く、またいつか、量子ゲートの種類をもっと教えていただけると幸いです。

・IBM Q 画期的なものだと感じた。作った人すごい。

・難しそうだけど、もっと使ってみたいと思いました。結構頭を使うので楽しいです。

 

【中立な感情】

・今回は内容が難しかった。同じ内容をもう一度聞きたいです。

・難しかったので何度もやって理解できるようになりたいです。

・量子コンピューターの利点などの理解はできたが、Circuitの画面で何ができるのかがよく分からなかった。

・実習については何をやっているか分からなかったですが、一瞬で計算をしてくれたりとすごいことをやっているんだなと思いました。

・結構使い方はわかったが、そんなに面白さはわからなかった。

 

【ネガティブな感情】

・行列とか難しくてわかんないです。

・量子ゲートのHやZを組み合わせるものが何だったのかよくわからなかったです。

・量子コンピューターが何なのかが最後までよく分からなかったが、計算が早いということは伝わってきた。

 

元々、「量子」の世界は専門外の人に直観的に説明することは難しいと思いますので、認知科学におけるプロジェクション・サイエンスのように直観的に捉えられるように授業では工夫してきました。たとえば、現行のコンピューターで計算するには、オセロのゲームのように白黒のふたつの状態を一生懸命ひっくり返しながら地道に計算を繰り返さなければならないが、量子コンピューターの場合は、丸い電球を光らせて、そのどの表面も同時にすべて使って計算できるといった説明の仕方です。

人文・社会科学系の大学の授業では、反直観的な量子の世界を量子力学的な説明でいくら説明しても学生に受け入れてもらえません。あまり理解できないことが続くと、心を閉ざされてしまいます。そうならないように、正確でも理解されにくい説明より先に、実際にまず操作してもらうなどの割り切ったアプローチも、学生の興味を喚起する意味で必要とこれまでの授業から学びました。

量子コンピューターの授業の様子を、成城大学データサイエンス教育研究センターのFacebookに投稿したところ、投稿から1週間過ぎるまでの総リーチ数の内、80%が投稿から24時間以内の素早い反応であったことから、閲覧者の関心の高さもうかがえました。

 

5. 量子コンピューターの利用を加速させるために

 

目下のところ、量子コンピューターをビジネスなどの実用の現場に持ち込むことは、まだかなりハードルが高いと思われます。

考えてみれば、自分が学生であった40年くらい前は、まだ汎用大型コンピューターがDP (Data Processing) 部門を備えた大きい大学や会社にしかなく、一般によく知られたものではありませんでした。また、当時はプログラムしようにも、大学の計算機センターの席取りをして、Fortran のような硬い言語(すなわち書式上の制約が多く柔軟な書き方が出来ない言語)に取り組む毎日でした。当時は、自分の書いたプログラムで画像データを簡単に操れるなど想像もできませんでした。それが PC (Personal Computer) の普及にともない、Basic、C言語、Java、JavaScript、Python など、誰でも自由にプログラミング言語が選べて、現在はプログラミングしやすい環境になりました。

量子コンピューターも、昔で言えば、まだマシン語やアセンブリ言語でプログラムしている時期にあると感じています。今後、既存のPythonなどの言語に加えて、量子コンピューター用の専用言語が多数生まれれば、気軽にアルゴリズムが組めるようになり、量子コンピューターの利用も飛躍的に進むと思われます。

IBM Q のように、大学の教室の卓上からでもクラウド経由で学習用に簡単に使用できる量子コンピューターの環境もあるので(しかも無料で)、世界中で使いこなして、皆で量子コンピューターを操作するワザを競い合ったり、切磋琢磨したりすれば、量子ネイティブ世代の育成も急速に進むのではないかと思っています。

また、特に日本では会社の経営層トップに人文・社会科学系の出身者が多いと言われています。量子コンピューター導入のためには、意思決定者である彼らにエレベーター・ピッチのように短時間で簡単に量子コンピューターの有用性や必要性を説けることと、クラウドなどで身近に量子コンピューターがいつでも動いている環境作りが不可欠と思います。

そうすることで、会社の経営層トップにも容易にアピールでき、量子コンピューターの利用が加速すると思います。

 

(文責 辻) この執筆内容は私自身の見解であり、必ずしも成城大学やIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。本文中の製品名およびサービス名は、提供元の登録商標または商標ですが、本文中ではTMおよび®商標マークは明記しておりません。

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IBM在職中は、トンネル顕微鏡を分析装置として駆使するエンジニアからスタートし、後半は技術者・研究者の育成・活性化および大学との連携強化プログラムの開発推進を担当するとともに、IBM Watson、IBM Q (量子コンピューター)を世の中に広める活動にも尽力。
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