人間の創造性とAI

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河島 茂生

河島 茂生

 青山学院女子短期大学現代教養学科准教授,理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員,青山学院大学シンギュラリティ研究所副所長,AIネットワーク社会推進会議分科会構成員,上廣倫理財団AIロボット倫理研究会プロジェクト委員など。2002年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2004年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了を経て,2010年同博士後期課程修了。博士(学際情報学)。専門は,社会情報学,メディア論。
 主な著書として,『AI時代の「自律性」』(編著,勁草書房, 2019),『AI倫理』(共著, 中央公論新社, 2019),『AI × クリエイティビティ』(共著,高陵社書店,2019),『情報倫理の挑戦』(共編著,学文社,2015),『基礎情報学のヴァイアビリティ』(共編著,東京大学出版会,2014),『デジタルの際』(編著,聖学院大学出版会,2014)などがある。

1.はじめに

AI・ロボット等による技術的失業を逃れるためには,人間は,ホスピタリティやマネジメントと並んで,創造性(クリエイティビティ)を重視しなければならないという。

では,創造性とはいったい何だろうか。これは,実に難しい問いである。これを問うことは,はっきりいって底なし沼であり,仮に学生が卒論で「創造性をテーマにしたい」といってきたら,十中八九,私は止めるだろう。それほど,難しいテーマである。逆にいえば,実は底なし沼だからこそ,わけが分からないからこそ,創造性であるともいえる。

問いを変えて,生物とは何だろうか。急に「生物とは」と問われて不思議に思う人が多いかもしれない。このエッセイのテーマは「人間の創造性とAI」なのに,唐突に何を問いかけるのかと不思議に思う人もいるだろう。

しかし,ここから論を起こすことはきわめて大切である。私たちヒト(ホモ・サピエンス)は生物の一種であって,自分たちはなにものかを考えることは,我々のもっている創造性を考えるときに,とても大切な問いとなる。

 

2.生物の特徴

生物学者の中村桂子(2014)らが述べているように,生物はすべてつながっている。多くの生物は,絶滅したが,別の生物へとつながっている。私たちはアメーバの子孫である。最初からヒトのような形になることが決まっていたわけではなく,模索的に進化してきた。

生物の必要十分条件として,オートポイエーシスという条件が提案された。オートポイエーシスというのは,自分で自分を作るという特徴を指す。

生物は,自分を生み出すメカニズムそのものを内部で作り出している。細胞は,まさにそれで,どんどん「作っては壊し,作っては壊し」のメカニズムが働いている。その細胞が人間の体内には,60兆個もあるといわれている(注1)。

Substrate Catalyst Links (SCL)モデルという自分で境界を作っていくコンピュータ・シミュレーションも,1970年代にできた(Varela, et al., 1974)。あるいは人工生命の分野で「カオスの縁」(カオスのふち,edge of chaos)が生命の原理ではないかともてはやされたことがある(図1参照)。これらは,たしかに面白い動きをする。しかしその動きの原理は,人間が設計している。あのようなパターンを生み出すメカニズム自体が内部で内発的に存在しており,外からではなくみずから/おのずから動作原理を有しているのが生物である(原島,2019)。

図1. カオスの縁
上の図は,「カオスの縁」と呼ばれるパターンの例である。カオスの縁は,格子状のセルと単純なルールを与えて動かせばさまざまな形状に変化する「セル・オートマトン」で生じるパターンの一種である。完全にでたらめでもなく,単なる決まりきった周期的な動きでもない模様であり,そこに生命の源泉があるという主張がなされた。

複雑さは,別段,重要な要素ではない。ただし,たった1個の細胞であってもその代謝のメカニズムは,きわめて複雑である。A0サイズの大きな紙で印刷しないと,よく分からないほどである(注2)。このような動きを内発的に行う細胞が人間の体内に60兆個もあり,それらが多層的に相互作用して人間の身体が形成されていく。

 

3.生物の認知

生物は,細胞や免疫系,神経系をも内部で作り自分自身を作り上げ,そして環境を認知している。ミツバチにはミツバチの身体の内側からみた環境があり,カタツムリにはカタツムリの内側からみた環境がある。特に生存に必要な情報はクローズアップして認知する。敏感に餌や敵を察知する。

人間も同じで,神のような視点から森羅万象をみているのではなく,人間特有の認知をしている。可聴域や可視域,幻肢を思い浮かべれば分かりやすい。

ゲノムが同じであると仮定したとしても,細胞がどのようにそれを認知するかによって動きが異なり,それが個々人が唯一無二になることにつながっていく。そして同じ時空間を占める生物は,その個体以外にいない以上,それぞれの個体が認知する環境も唯一無二となる。

不確実な環境下で自分をどんどん作り変え,自分自身に対する認知も環境に対する認知も作り変えながら生きている。その瞬間,その瞬間で,価値あるものを見出し続けている。

 

4.テクノロジーによる認知の拡大

人間とテクノロジーは異質である。テクノロジーもしくはメディアは,人間の拡張ではあるが,それでもオートポイエーシスではなく異質な存在である。

けれども,テクノロジーなくしては人間ではないといってよいほど,両者はずっと共にある存在である。話し言葉が最初のテクノロジーであるといった人もいる。

テクノロジーによって,我々は認知の領域を拡大してきた。望遠鏡や顕微鏡を思い浮かべると分かりやすい。最近ではドローンは,これまでみることができなかった風景を私たちに見せてくれる。地球規模の電波望遠鏡で,ブラックホール(の影)まで撮影されるに至った。マーケティングでも,AIやセンサが使われて,経験と勘だけでは分からなかったものを数量的に示してくれる。

 

5.人間の表現とテクノロジー

生物は,その成立とともに認知をしており,人間は表現もする。狩りの成功を夢見て洞窟に壁画を描いたり,あるいは魔物から自分を守るために刺青を身体に入れたりする。子どもは,紙からはみ出るような大胆な構図や大胆な色で作品を作る。実に魅力的で迫力があり,引き込まれる。

図2 子どもが描いた絵

その表現にはテクノロジーが介在している。書くことについていえば,鉛筆や紙もテクノロジーの一種であるが,タイプライターもそうである。フリードリヒ・ニーチェやジャック・ケルアックの文体は,タイプライターの影響が見て取れる。日本の小説は,1980年代以降,ワープロができてから分厚くなった。

書く道具によって,私たちの創作物は影響を受けている。

図3 ニーチェが使ったとされるタイプライター

最近では,AIを使った創作も話題を集めている。

プロジェクト「The Next Rembrandt」のことを聞いたことがある人は多いだろう。17世紀の画家レンブラントの作品を3Dスキャンで読み込んで機械学習させる。その後,3Dプリンタを使って出力する。亡き人の,いわゆる「新作」を作ったというプロジェクトである。AI美空ひばりやTEZUKA 2020も,これに類するものだ(注3)。

もっと身近な創作にも,AIは使われている。ロゴを作るジェネレーターはたくさんあり,BGMも簡単なものなら曲調などを選ぶだけで作られるようになった。

線画の自動着色サービスもあり,アニメーションの中割を自動でやってくれるソフトウェアも開発されている。アニメ業界のように大量に画を作らなければならない場合,作品作りをサポートしてくれるソフトウェアがないと作り手の体力がもたない。ソフトウェアによって状況を改善することが期待されている。

ユーザーインターフェース(UI)もしくはユーザーエクスペリエンス(UX)のデザインでも同じで,人間が職人的に考えるよりも,とりあえず投入してみて,それを数量的に把握して,よい反応が得られたインターフェースを採用していくといった手法が多くの面でみられる。コンピュータを使って認知を拡大し,それによってデザインしていく例だ。

加えて画像解析技術や音声認識技術などのテクノロジーを使うことで,体に障害のある人も社会参加しやすくなり,そういった人の創造性も今後活かせるようになっていくだろう。

 

6.創造性?

さて,あらためて最初の問いに戻ろう。創造性とは何だろうか。

創造性の発露として創作が行われるが,創作は生命情報と意識,社会情報,テクノロジーの結節点として存立する。

情報は,もともと生命情報だった。情報というと,すぐコンピュータを思い浮かべる人が大多数だが,情報は,元来,生き生きとしたものだった。

私たちの体内には生命情報が渦巻いている。その生命情報を大切にしなければ,創作の根幹がゆらぐ。俳人や小説家にはそれに気づいている人が多くいる。長い距離を歩き,毎日,走り,そして机の前に座って創作に向かい合う姿勢もとる。

生命情報を意識にまで上らせ,創作にまで結びつけていくには, さまざまな工夫を必要とする。生命情報がもとになって意識が生まれ,ほかの人に伝わる社会情報(言語等)へとつながっていく。

人を揶揄する「意識高い系」という言葉もあるが,意識はたしかに重要だ。しかし,意識は氷山の一角にしかすぎない。体感的に理解して身体性をともなった情報にしておく必要がある。それを社会情報と混ぜ合わせ,テクノロジーによって表出していく。

繰り返しになるがテクノロジーは,生物とは異質な存在である。しかし,「人間対AI」というように,人間と技術を対立的に考える必要はない。というのも,前にも述べたようにテクノロジーは人間の拡張であるからだ。人間の創造性を高めてくれるものとして,テクノロジーを積極的に学んで取り入れ,パターン化して可視化し楽に創作できるように活用し,新しい表現を作る時空間を作っていく。

前記したのに加えて,たとえばテクノロジーは型をみるのに役立つ。小説や神話を含め,物語には型がある。ヒーローズ・ジャーニーという型は,スターウォーズのもとになった。AIによって,小説の感情語の起伏のタイプ分けもできる。

型は,文法レベルにもみられ,歌舞伎等の芸術にもみられる。論文という形式にもみられる。守破離でいうと,「守」の領域だ。型は,人間の認知で捉えられない面も少なくない。しかしAI等によって過去の作品を大量に読み込み,型を抽出し,自分の作品に活かすことができる。

けれども型を破って,型を自分で作っていくことになると,あまりにも不確実性が増えるため,AIがすべて代替することは困難である。「守破離」でいうと,「破離」の部分だ。

 

7.創造性―不確実性―唯一性

私たちは,自分で自分を作っている。そして環境を認知して生きている。

私たちの来歴は,必ず唯一性をもっている。唯一性がない人などいない。まったく同じ人生を歩んでいる人などいない。街を歩いても,仕事場でも,自分と同じ人は誰もいない。どんなに,ある人に憧れ,その人のようになりたいといっても,それは叶えられない。それは,ほかの人が自分自身になれないのと同じである。私たちは,生物学的なレベルから自分で自分を作りながら,さまざまな環境を認知して,唯一無二な存在になっている。

自分自身の生命情報に耳を澄ます。自分が何をみて何を感じてきたかを大切にすることである。そうすると,唯一性が誰もがおぼろげながらでも感じられてくる。それが創作の根幹である。

創造性は,狂気との関連が指摘されることも多い(たとえば松本,2019)。しかし,創造性は狂気をまとった人たちだけにあるのではない。技術的人工物との関連が指摘されることも多い(たとえばLeung et al., 2012)。しかし,創造性が技術的人工物自体に宿るわけではない。

私たちは,ゲームのようなゴールが定まった時空間を生きているわけではない。手探りで,意味を見出しながら,たえず自分を作り上げながら生きている。

創造性は,元来,人間に組み込まれている。内在しているといってもよい。私たちは不確実性や唯一性を本質的に抱えているからである。自分自身でも何が創造できるか,数年後に何を企画しビジネスをしているか具体的に詳細に分かっている人はいるだろうか。私たちは,唯一無二の内面(内的視点)から様々なことを経験し,その経験をみずから/おのずから読み込んで社会に存在している。その不確実性をはらんだ唯一性を完全にAI等によって定型化できるかと聞かれたら,それは可能性ではゼロではないかもしれないが,実現ははるかはるか先であろう。

AI等の技術を使って,型を感得し,そこに自分の唯一性を大切にしながら織り込んでいく。これからは,そうした創造性が積極的に求められていくだろう。

本エッセイは,『AI × クリエイティビティ』(河島茂生・久保田裕,高陵社書店,2019)の内容をダイジェストでまとめたものである。


図注

図1=CC0ライセンス

図2=PD(Public Domain)

図3=by Plenuska, Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International (CCBY-SA 4.0)

 

(注1) 人間の体にある細胞は37兆個という推定もある。

(注2) “Roche – Accessing the posters”

https://www.roche.com/sustainability/philanthropy/science_education/pathways/pathways-ordering.htm アクセス日: 2020/04/20

(注3)「AI美空ひばり」は, 日本放送協会(NHK)主導で行われた,故・美空ひばりの歌声や容姿を新しい曲で再現しようとした試みである。美空ひばりの過去の歌声や話し声,歌っている姿をAI等の技術で読み込みチューニングを重ね特徴を取り出したりすることで,美空ひばりを蘇らせようとした。「TEZUKA2020」は,故・手塚治虫が残した漫画のデータを活かし,「新作」漫画を制作しようとするプロジェクトである。AI等の技術を使い試行錯誤してプロットやキャラクター画像を生成した。その後,それを素材としてプロの漫画家が“手塚らしい”漫画にしていった。


謝辞

本記事の執筆にあたって,水野義之先生(京都女子大学)にご助言をいただきました。記して感謝申し上げます。


参考文献

原島大輔(2019)「生きられた意味と価値の自己形成と自律性の偶然」『AI時代の「自律性」』勁草書房,pp.69-94.

河島茂生・久保田裕(2019)『AI × クリエイティビティ』高陵社書店

Leung, A. K.-y., Kim, S., Polman E., Ong, L.S., Qiu, L., Goncalo, J. A., Sanchez-Burks, J. (2012) “Embodied Metaphors and Creative “Acts” ” ,  Psychological Science, 23(5), pp.502-509.

松本卓也(2019)『創造と狂気の歴史』講談社.

中村桂子(2014)『生命誌とは何か』講談社

Varela, F. J., Maturana, H. R., Uribe, R. (1974) “Autopoiesis: : the organization of living systems, its characterization and a model”, BioSystems, 5, pp.187-196.

ABOUTこの記事をかいた人

河島 茂生

 青山学院女子短期大学現代教養学科准教授,理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員,青山学院大学シンギュラリティ研究所副所長,AIネットワーク社会推進会議分科会構成員,上廣倫理財団AIロボット倫理研究会プロジェクト委員など。2002年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2004年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了を経て,2010年同博士後期課程修了。博士(学際情報学)。専門は,社会情報学,メディア論。
 主な著書として,『AI時代の「自律性」』(編著,勁草書房, 2019),『AI倫理』(共著, 中央公論新社, 2019),『AI × クリエイティビティ』(共著,高陵社書店,2019),『情報倫理の挑戦』(共編著,学文社,2015),『基礎情報学のヴァイアビリティ』(共編著,東京大学出版会,2014),『デジタルの際』(編著,聖学院大学出版会,2014)などがある。