冒険の物語のはじまり

求む冒険者。

希望と至難の旅。

時に極寒と灼熱。

夜は暗黒。

絶えざる魔物。

生きて帰れる保証なし。

討伐の暁には名誉と賞賛を得る。

 

ファンタジーの世界のそんな果てしない冒険の物語は多くの人を魅了している。

私もファンタジー (と、かわいいヒロイン) さえあれば幸せというほど、そんな物語が好きだ。

興味のあるものはその成り立ちまで知りたくなるので、現在のファンタジー小説がどのように現在の形になったのかを調べてみた。

なお、ファンタジーといえばロー・ファンタジーからサイエンスファンタジーまで非常に幅広いが、ここでは私の好きな異世界を舞台にした剣と魔法のファンタジーに絞って扱いたい 。もともとなんでもありのファンタジーですべてを扱うのは不可能だからだ。

 

勇者と魔法使いの起源

エルフやドワーフ、トロールといった剣と魔法のファンタジーに登場する種族の起源は遥か昔の北欧神話 (キリスト教が広まる前に北欧で信じられていた神話) まで遡ることができる。そして現在の剣と魔法のファンタジーには勇者の冒険をテーマにしたものが多いが、勇者の冒険をテーマにした英雄譚はそれより後の中世に多く作られた。

また、昔から世界中に魔術や呪術の文化は世界各地に存在していた。そのためアーサー王伝説といった古い英雄譚でも魔術師は登場し、英雄を助けることもあった。その点では英雄譚と現在の剣と魔法のファンタジーとの共通点が多い。一方、これら古典の英雄譚では敵は魔王やゴブリンではなく、単なる敵対勢力や人間であり、魔法については敵を直接攻撃する攻撃魔法がほぼ見られない点で異なっている。また、中世以前の魔法使い像は必ずしも現代の魔法使い像のようなものではなかった。

「魔女」というように、魔法使いには女性が多いというイメージ、黒いマントを着てほうきに乗って空を飛ぶといったイメージは、魔女狩りの時代に広まった。これは異端とされた宗派の集会や慣習が伝聞の中で誇張されたりしてできたイメージであった。現在のファンタジー小説の魔法使いは決まったスタイルを持たないことも多いが、こういった魔法使いのイメージについては今でも多くの作品で見受けられるのではないだろうか。

神話から魔法へ

英雄譚の流行した中世が過ぎ去り、宗教改革と啓蒙の時代には神話や英雄譚といった物語はいったん衰退した。しかし19世紀中ごろ、それ以前から存在した妖精が登場する童話が発展した形で異世界を舞台にしたファンタジー作品が多く登場する。

20世紀になり、「ナルニア国物語」「ゲド戦記」「ホビットの冒険」(指輪物語はその一部)などが登場する。ナルニア国物語は、エルフやドワーフといった北欧神話の要素、アラブの伝承などさまざまな地方の伝承や神話が取り入れていた。他にも、宗教から取り入れたと考えられる正義と悪の対立、英雄譚のような冒険の旅といった要素も見られる。この時代になって、それまでそれほど繋がりのなかった北欧神話や英雄譚、魔法の要素が融合したファンタジー物語が登場した。

 

攻撃魔法の登場

そして20世紀中ごろ、アメリカでテーブルトークRPG (TRPG) が登場した。TRPGは紙とペン、サイコロなどを使用し、自分のキャラクターを操作してダンジョン攻略などを目指して遊ぶゲームだ。TRPGは架空の国の内戦や戦争をテーマにしたミニチュアゲームが、次第にファンタジーブームにのってファンタジー要素を取り入れてできたものだった。特にダンジョンズ&ドラゴンズ (D&D) が有名で、今でも販売されている。最初ゲームの世界観は重視されていなかったが、次第に世界設定に力が入れられたTRPGも増えていった。後に科学と魔法の融合した文明が栄えた世界 (Eberron、2003年頃登場)といったテーマまで登場した。

D&Dがそれまでの物語と異なるのはファイアーボールといった現在のファンタジー小説のような攻撃魔法がある点だ。これらのD&Dの魔法の体系は史実の魔術や呪術とのかかわりがやや薄い。炎、風などの属性を持ち、時に敵を一瞬で焼き尽くす攻撃魔法は、おそらく錬金術の4元素説や、その他様々な神話の神々の攻撃をもとにしたと考えられる。ここにきて現在の剣と魔法のファンタジーによくある攻撃魔法が初めて登場した。

 

日本上陸、そして

D&Dは翻訳されて日本にも輸入され、大きな影響を与えた。そして国内では1980年代後半にドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー、小説ではロードス島戦記などが登場した。この3作は大ヒットし、その後のファンタジー作品に大きな影響を与えた。ただしこれ以前から指輪物語などの西洋ファンタジーは国内に輸入されており、これに影響を受けた作品は登場していた。1978年に登場した「異世界の勇士」は、主人公が召喚された異世界で剣士として活躍するという、おそらく初めての異世界転生 / 転移ファンタジーだ。

何はともあれ、D&Dに影響を受けたこれら3作品は炎、風などの属性の魔法、エルフ、トロールなどの種族、中世ヨーロッパ風の世界、剣士と魔法使いのパーティ、そして魔王を倒す冒険という現在の剣と魔法のファンタジーのテンプレート的な要素の多くをそろえていた作品だ。このファンタジー種族と中世ヨーロッパ風の世界、剣と魔法と冒険のファンタジーという組み合わせは非常に完成度が高かったのではないだろうか。

 

ファンタジー、不動の類型

それから30年近くたった今でも初代ドラゴンクエストとほとんど同一の世界観、同じストーリーの流れの剣と魔法のファンタジー小説が存在している。中にはよりファンタジー性を求めて、呪文の詠唱や魔法陣の展開など史実の魔術的要素を加えた魔法体系を採用する物語も存在する。また、最近は戦闘のないほのぼのとした日常系ファンタジー小説も多く登場しているが、世界観はドラゴンクエストと全く同じという作品も多い。もちろん剣と魔法のファンタジー以外のファンタジーや、D&Dやドラゴンクエストの影響を受けつつも、全く違う方向へ進化していったジャンルも存在するだろう。しかし上記のテンプレートを使用した作品が今でもファンタジー小説の世界で有力なのは間違いないだろう。

 

最近では小説出版の敷居も下がった上、投稿サイトで誰でもファンタジー小説を投稿できる。異世界から異世界へ転生する物語、異世界でAmazonでチェーンソーを注文して無双する物語、王国を滅ぼそうとする借金の魔の手と戦う物語、薬学博士号取得者が書く異世界薬局ファンタジーなどありとあらゆるファンタジー小説が世に出続けている。突拍子のないものを組み合わせた物語は迷作との評価を受けるものも多いが、もともとファンタジーは成り立ちからして何でもありだったのだから、最近のファンタジー小説がAmazonでも電脳世界でもなんでも取り込んでいくのは当然ではないだろうか。私としては好き嫌いはあるものの、どれがよくてどれが悪いなどとは思わない。また、テンプレート通りのべたなストーリーや、主人公がほぼ無敵という設定は批判されることもある。しかしこれらが悪いというならば、ジャンルは違えど毎回お決まりの展開、べたなストーリー、そして主人公が無敵なテレビドラマの水戸黄門がなぜ2017年まで60年以上も続いたのだろうか。

 

おそらく今後も様々なファンタジー小説が生まれていくだろう。しかし先に述べたD&Dやドラゴンクエストの剣と魔法、冒険の旅、中世ヨーロッパ風の街、ファンタジーな世界観という組み合わせは非常に完成度が高く、おそらくこれからも今後も魔王を倒す冒険と剣と魔法がテーマの物語は末永く生まれ続けるだろう。

[1] 小谷真理『ファンタジーの冒険』、筑摩書房、 1998.

[2] 脇明子『魔法ファンタジーの世界』、岩波書店、 2006.

[3] J.R.R トールキン『ホビットの冒険 上』新版第12刷、岩波書店、 2004.

[4] 「ウィキペディア 魔術」、https://ja.wikipedia.org/wiki/魔術

[5] 「ウィキペディア ダンジョン&ドラゴンズ」、https://ja.wikipedia.org/wiki/ダンジョンズ%26ドラゴンズ

[6] ブックオフ 異世界召喚・転移・転生ファンタジー小説の歴史
http://www.bookoffonline.co.jp/files/lnovel/pickup/pickup_isekai-history.html

[7] 安田 均『スペル・コレクション ―ファンタジーRPGの魔術― 』(Kindle版)、富士見ドラゴンブック、2013

執筆者プロフィール

澤村康人
澤村康人日本ラッド株式会社 クラウドソリューション事業部
1992年、滋賀県長浜市生まれ。2018年大阪府立大学工学研究科卒業。工学修士。

高校時代は囲碁部に所属し、囲碁1級取得。
大学と大学院での研究テーマは機械学習と分散表現を使用した料理レシピ文の自動分類 (自然言語処理)。趣味はブログを書くことと、剣と魔法のファンタジーがテーマのゲームと小説を読むこと。